待望のCDプレス

日本では、導入したゼロ金利政策を2000年8月に解除した。 それが景気を冷やし、3月には量的金融緩和の導入を余儀なくされた。
デフレが続いているさなかに量的金融緩和を解除、7月にゼロ金利政策を解除し、2月には利上げをした。 その結果、資産価格に下落圧力がかかると共に、地方での経済の落ち込みを加速させた。
結果的に経済を脆弱にし、サブプライムローン問題の外的ショックが起きると先進国で最も成長率が落ち込んだ。 日本経済の失速は輸出依存が高いためとされるが、利上げが内需を殺した結果でもあり、引き締めは歴史的な失敗だった。
今回の危機は、日本の不良債権問題をはるかにしのぐ規模での住宅、信用バブルの生成と崩壊に起因する。 その爪あとは凄まじく、米国では家計や企業は借金漬けになっている。
仮に賃金や利益が上がっても、それを借金返済にあでなければならず、消費や設備投資に回る余裕はない。 需給ギャップは米国ではGDPの7、8%にものぼり、簡単にはなくならない。
リスクを移転された政府やFRBが、それらを時間をかけて解きほぐすしかない。

出口を急ぐのは危険だ。
難しいのは米国の赤字ファイナンスだ。 マネー経済がGDPの3倍を超えたからこそ、毎年垂れ流された赤字ファイナンスが可能になった。
しかし規制の再強化でレパレッジ倍率は下がり、マネーのGDPに対する比率は縮小する。 マネー経済の縮小は、それに寄りかかっていた国の財政赤字ファイナンスが危機に陥りかねないリスクをはらんでいる。
拙速な出口はそのリスクを顕在化させかねず、それを避けようとすると時間をかけた緩やかな軟着陸しかない。 危機の規模を考えると、世界経済はその失われた何年を超える長期停滞を経験するリスクに直面している。

「金融取引に課税して、それを世界の貧しい人々のために使うべきではないか」
フランスのB・C外相は、2009年9月初め、経済紙への寄稿でそんな考えを明らかにした。
世界は今、貧困の広がり、子供の病死、マラリアなど伝染病の拡大、エイズの蔓延、女性差別など、さまざまな問題を抱えている。 貧困国の健康問題を解決するためだけでも毎年350億ドルの資金が必要になる。
そこで金融取引に0・005%の税金を課して、その税収を貧困撲滅に使ってはどうか、という提案である。 この税率だと、金融取引に痛みは伴わないと強調している。
人道上の配慮に基づく課税構想だ。 C氏の場合は外交・欧州担当という、いわば金融の門外間の提案だったが、ドイツのS財務相が、9月に危機対策のコストをまかなうために金融取引に課税すべきだとする意見を経済紙に寄稿した。
金融支援のためにGDPの3割の資金が使われた。 その原資を拠出した実体経済は失業に苦しむ一方、支援を受けた金融機関は巨額のボーナスを依然として支払っている。

それに対する政治的な答えは報酬制度の見直しを含む規制改革だが、それだけでは不十分だ。 そこで金融取引に課税して「平等」の回復に資するべきだと主張している。
諸国がすべての金融取引に0・05%の税金を課すべきで、それによって年間6900億ドルの税収が確保できるという。 財務相はその程度の税率であれば流動性の低下にはつながらず、すぐに導入すべきだと主張している。
課税構想を提案したのが有力経済閣僚だっただけに、衝撃は大きかった。 国際的な金融取引に課税する構想は、1972年、経済学者T氏によって唱えられた。
外為取引の売り手と買い手に1%の税金を課して、投機的な取引を抑えるべきだと主張した。 金ドルの交換を停止したニクソン・ショックによって通貨体制は金ドル本位制から変動相場制に変わり、それに伴う相場の投機的な乱高下を防ぐ手段と位置付けていた。
T氏はスウェーデン中央銀行による経済学賞(通称ノーベル経済学賞)を受賞したが、T税は異端扱いされてきた。 税金を課す理念は間違ってはいないものの、市場経済が拡大する中で、T税はその根幹を揺るがしかねないからだ。
課税する必要がないと主張した人たちの論拠のひとつは、金融取引は実体取引を裏から支えており、実体にも金融にも課税されると二重課税になりかねない、というものだった。 ただ、市場は当局の予想を越えて拡大した。
物の取引の拡大につれて、その裏側にある金融も拡大したが、それよりも利益を目的にした物の取引の裏付けを伴わない金融取引が拡大した。 派生商品取引などがその典型例だ。

そして税金というコスト負担が極めて低いため、実物より金融という風土を生み出した。 これがレパレッジ拡大の要因のひとつで、サブプライムローンに端を発する金融危機でその限界が露呈した。

今回の動きは、実物経済に比べ税制面で優遇されすぎている金融経済を、実物経済と同じ土俵に乗せる試みといえる。 危機対策でセーフティーネットが発動されたが、その原資は税金だ。
その原資の主な拠出主は実物経済で、税金を払わない金融機関がセーフティーネットを利用するのはおかしい、というS財務相の主張には説得力がある。 税制優遇の問題は、欧米だけの問題ではない。
日本でも株式や投資信託の取引から発生する利益に対する税率の優遇措置を講じている。 その前提は、欧米に比べて日本の証券関連の税率が高く、それが証券取引を阻害しているとする内容だった。

また課税による負担を軽くすれば投資資金の導入を促すことができ、株式相場を押し上げられるというねらいもあった。 しかし、日本も長い目で見ると金融や証券会社の救済のため、税金を活用したセーフティーネットを構築してきた。
その税金の負担主は一般国民で、メガバンクグループはもう何年も法人税を払っていない。 負担はしないで、国民の税金を使ったセーフティーネットの恩恵は人一借受けている。
日本の場合、一般国民の権利意識が低いので、そうした状況に対する怒りが暴動などの形で噴出することはない。 しかし、高額報酬を食む金融・証券界の国民の税金へのただ乗りは改める必要がある。
国際的な金融税制の見直しの流れの中で、優遇税制などにメスが入る公算が大きい。 難しいのは課税の程度だ。
金融は実物経済を支援するためにある。 それが主役に踊り出たサブプライムローン問題以前の姿は異常で、改める必要があるのは間違いない。

金融取引が、たいして負担もしていないのに最大限セーフティーネットを利用するフリーランチは防ぐ必要がある。 しかし、税負担を強めすぎると金融取引を殺しかねない。

過度な負担を嫌気して金融取引が縮小しすぎると、実物経済を支えることができなくなってしまう。 金融は経済の血液で、それを否定しては経済は円滑に回らない。
経済を裏から支える金融の機能を生かすことが最優先だ。 そのうえで、今回の危機のように金融が暴走し経済に大打撃を与える事態を回避する。
税金はその調整をする有力な手段のひとつではあるが、金融を殺しかねない劇薬でもある。 新しい金融秩序の中で金融税制をどう位置付けるのかが、ピッツパーグ以降の重要なテーマになりそうだ。
今回の金融改革を受けて金融覇権は塗り変わる。 CループやR・O・Sなどは、国の関与が強まり競争から脱落した。
投資銀行の収益性は落ち、商業銀行業務が復活してくる。

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